短編小説-イルミネーション2008-③

はるり

2008年12月11日 21:00

昨日から急に寒くなったせいか、彼女の手はとても冷たくなっていた
同じように、抱きしめていた子供の顔も冷たかった。

ゆっくりと、子供が落ちないのを確かめながら
捕まえていた体を離して、次の台詞を探した。

それでも、僕は「お久しぶり。元気にしてた?」そう告げるのが精一杯だった。

「元気よ。はるは?」
久しぶりに大学時代の呼び名で呼ばれ、照れくさくなって、周りを見渡した。

イルミネーションが飾られている並木道には
それを楽しみにしている人たちを見込んでか、新しいカフェが出来ていた。
そして、他にもいろんな出店がならんでいる。

新しくできたカフェの前には、真新しいテーブルと椅子が並べてあって
そこでは、イルミネーションを ゆっくり眺めながら
暖かい飲み物が飲めるようになっていた。

そこを 指さして
「昨日から寒くなったね。あそこで あったかいものでも飲もうか?」
そういうと、子供たちはいやな顔をした。
近くの遊具が気になってしょうがないようだ。
「それじゃ、二人は あそこで遊んでおいで。でも、パパがみえるところにいなきゃだめだよ。」
子供たちは、とたんに笑顔になって いちもくさんに、遊び場へ走っていった。

「やっぱり子供たちは、元気ね。みならわなくちゃ。」
走り去る子供たちをみながら、彼女がそうつぶやいた。

それから、僕らはその遊び場が見える 一番端の席に座った。


何から話そうか 話したいことは山ほどある。


しばらく 沈黙が続く間
ボーイさんが、お水とおしぼりを運んできた。
そして、コップを一つだけ 僕の前においた。

「カプチーノを 二つ下さい。」
そう告げると、ボーイは 少し驚いた顔をした。
「わかりました。しばらくおまち下さい。」
そいうと、窓越しに見えるカウンターの中へもどっていった。

「いま、どうしてるの?」
彼女が、何かを 確かめるようにいった。

そう聞かれても、今の自分は
今までのことを 順序よく話すことなんて、とうてい出来そうもない。
「結婚したんだ?いつ?どんな人?」
彼女の質問が、まるで聞こえていないように、こちらから責めるように尋ねてしまった。

彼女は、これまでの事を
まるで、話すことを決めていたかのように 話しはじめた。

病気のこと、仕事のこと
あたらしい出会いがあったこと
そして、子供が生まれたこと

その一つ一つは、僕が、こんな風にいて欲しいと思っていたことと同じで
今、しあわせなことが充分伝わってくるような 素敵な話だった。

時々、自分の家族の話しや仕事の話で相槌をうちながら
同じ時代で、似た生活をしているお互いのことが
なんだか、おもしろおかしく感じられた。

「結局、僕らはみんな同じなのかもしれないね。」
そういうと、彼女は大きく頷きながら
時々、子供たちの方をみて笑っていた。

関連記事