最後に ここで二人が会ったのは いつだっただろう。
流れた時の長さを 計ってみた。
いつの間にか、髪には、白いものがあって
肩車をした 娘が それを見つけてはよろこんでいる。
きっと、もう自分では計ることが出来ないくらいの時間が流れているのだろう。
そして、それは 取り戻すことが出来ない時間なのだろう。
貴女にとって
その時間は、どのくらいの長さだったのだろうか。
決して 短い時間ではなかったはず。
聞けば、別れて しばらくして
体を煩って 長く入院しなくてはならなかったとか
いい別れだったし、お互い納得していたつもりだったけど
その話を聞いた時は
正直 いてもたってもいられなかった
でも、その時 僕は 会いに行くことはできなかった。
「お互い 会うときには、しあわせでいること。そうじゃなきゃ、もう絶対会わないからね。」
二人で そう 決めたから。
僕自身、幸せじゃなかったから。
それで、よかったかどうかは 別として・・・
それから貴女が どうなったのかは知らない。
貴女のことだから、きっと 元気になって頑張ってくれていると思う。
強くて、みんなから頼られていて、みんなに元気をあげていた あの頃のように
溌剌として、凛として居ることだと思う。
「パパ、どうしたの?」
長い時間立ち止まっていた僕の頭の上から 娘が声をかけた。
寒いのだろうか、顔をのぞき込んだ娘は 肩を少しだけすぼめた。
「寒い?」
肩から娘をおろすと、落ちそうになっていたマフラーを、もとのように
2回くるくると巻いた。
今度は、下から顔のぞき込む娘が
「パパ、きれいだね。あっちもみてきていい?」と尋ねた。
「いいよ。危なくないようにね。」
走りさる娘の後ろ姿に声をかけたが、どうやら聞こえていないようだ。
思えば、今年で17回目の点灯式
最初の点灯のときは、思わず二人で声をあげてしまった。
「すっげーなー。全部、俺たちだけで付けたんだぜ。」
2回目の時は、友達みんなも連れてきて 二人で自慢した。
そして、3回目からは 一人での点灯式。
スイッチを入れる時には、毎度のことだけど。。。彼女の、そらの笑顔がよぎる。
そして、指を折っては あれから どれくらいたったのかを確認していた。
いつの頃からか 両手で数えることもできなくって 数えるのをやめた。
いまでは、家族 みんなでスイッチを入れている。
どこのだれがみても、しあわせにみえると思うし
僕自身も しあわせだと思っている。
でも、なぜだろう。
このイルミネーションをみる度に、やり残した事があるように思えるのは
「パパ。こっちきて~。」娘が、遠くから呼んだ。
「どうしたの。めいが こっちの方へおいで」
車がとめてあるすぐ近くの場所までくるように手招きをした。
「えぇ~。。わかった~。じゃあ~そっちいく~。」
駆け足で戻ってくる娘の横には、手を繋いで走ってくる子供の姿があった。
幼稚園のお友達とでも 会ったのだろうか。
娘は こちらへ着くなり、早口で その子の紹介をはじめた。
「この子ね。りょうちゃんっていうんだって。パパと同じだね。」
「そうなんだ。りょうちゃんなんだ。同じ幼稚園の子?」
そう訪ねると、娘は首を横に振った。
今度は その子に訪ねてみた。
「このあたりに 住んでるの?」
その子も 首を横に振った。
周りを見回してみても、その子の親らしき人はいなかった。
「ひとりできたの?」
また、首を横に振った。
どこからきたのか気になったし、一人じゃ危ないだろうと
抱っこして もう一度 周りを見渡した。
娘より だいぶ軽かった。
同じくらいの歳だとおもったが、少し小さいようだ。
「綺麗でしょう。おじさんが これ全部付けたんだよ。」
そう語りかけてみた。
そういうと、目の前にある 小さなかわいい顔が びっくりした表情になった。
「おじさんがつけたの?ママも 昔ね。つけたっていってたよ。」
「えっ。」
その時、その子供が 誰かをみつけて
すぐに とびきりの笑顔で 大きな声をだした。
「ママ~。」
その 視線の先に
僕も 同じように目をやった
そこには、あの頃と変わらない あの頃のままの笑顔があった。
ゆっくり近づいてきた彼女は 僕にこう告げた。
「そろそろ、しあわせ自慢しなくちゃね。」
そう告げたとたん、しゃがみ込んだ。
ときどき揺れる肩・・・たぶん泣いているんだろう。
なぜだろう。僕は、言葉がでなかった。
そして、涙もでなかった。
ただ、その場所から しばらく動くことができなくなった僕の手を
二人の子供たちが しっかりと握りしめていた。